最初の顧客層から広げる手順:ムーアのキャズム理論を小さな事業で読む
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最初に買ってくれた人の次が、いちばん難しい
キャズムとは、新しい商品を早く試す層と、慎重な多数派とのあいだにある深い溝のことです。ジェフリー・ムーアが1991年の著書『Crossing the Chasm』で示しました。彼は、先に買う層と大多数の層では求めるものが違うので、前者で成功した方法がそのまま後者に通じない、と論じています。
最初の数人は買ってくれたのに、その後が続かない。小さな事業でよく起きるこの状態を、説明する枠組みとして読めます。
溝ができる理由
ムーアは、エベレット・ロジャースの普及理論のうち、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に溝があると考えました。
先に買う人は、新しさや将来の可能性に価値を見ます。不完全なところがあっても、自分で工夫して使います。多数派の人は、すでに使っている人の実績があり、すぐ使えて、問題が起きたら助けてもらえることを求めます。
つまり、同じ商品でも、伝えるべき内容が違います。「新しい」と言えば響く層と、「同業の人が使って成果が出ている」と言わないと動かない層があります。
足がかりを1か所に絞る
ムーアが勧めるのは、一つの客層に絞って、そこで確かな足がかりをつくる方法です。第二次大戦のノルマンディー上陸になぞらえて、橋頭堡と呼んでいます。
絞る基準は、困りごとが切実で、その客層の中で互いに情報が回りやすいことです。たとえば、「個人の税理士事務所」「歯科医院」のように、同業同士で口コミが伝わりやすい層が候補になります。
次に、その客層が「これで困りごとが片付く」と思える状態まで、商品を仕上げます。ムーアはこれを、中核の商品に周辺の部分を足した「完全な商品」という言葉で説明しています。導入手順、使い方の資料、よくある質問への答えまで含めて、一式にする、という意味です。
周りの層に広げる
足がかりの客層で実績ができたら、隣接する客層に広げます。たとえば、歯科医院で成果が出たなら、似た運営をしている整骨院や動物病院といった、近い層を考えます。
広げるときは、最初の客層での事例をそのまま見せ、違う点だけ調整します。同業の事例は、慎重な層にとって最も説得力があります。ただし、事例を出すときは、本人の許可を得てください。
限界
この理論はハイテク製品の市場を主な対象にしていて、ロジャースの普及理論を土台に、ハイテク市場での観察と事例から提唱されたものです。管理された実験で確かめられた法則ではありません。サービス業や個人の仕事にそのまま当てはまるかは、検討が必要です。
また、絞りすぎると、客層が小さすぎて収入にならないこともあります。足がかりの客層の大きさが、事業を支えられるかも事前に見積もっておきます。
絞った客層の選び方の確認
客層を選ぶときは、次の3点を見ます。困りごとの強さ、互いの距離の近さ、そして自分がすでに少し実績や知識を持っているかです。3つのうち、1つでも欠けているなら、別の候補を探します。
たとえば、知識はあるが客同士のつながりが薄い層では、紹介が起きにくく、広げるのに時間がかかります。
絞ることへの不安
客層を絞ると、それ以外の客を断ることになるのではと心配になります。実際には、他の客からの依頼を断る必要はありません。説明の言葉と、積極的に営業をかける先を絞るだけです。
最初のうちは、広告や紹介の依頼も、その客層の中だけに向けます。広く声をかけるより、狭い場所で何度も名前が出るほうが、記憶に残りやすいからです。
よくある失敗
商品の特徴を広く並べ、誰にでも合うと伝えてしまうことです。慎重な層は、自分に合うかを読み取る手間をかけません。最初の1文に、客層と困りごとを入れます。また、足がかりの客層で十分な数の事例ができる前に次へ進むと、どちらの層にも中途半端になります。事例が3件そろうまでは、同じ客層にとどまります。
足がかりができたかの目安
足がかりができたかは、売上の大きさよりも、その客層の中で名前が知られているかで判断します。同業の人から「あの人に頼んだ」と話題に出る、紹介で問い合わせが来る、といった反応が目安です。これが起き始めるまでは、客層を広げずに、同じ場所で改善を続けます。
次にやること
- 今の客のうち、困りが切実で、互いに知り合いが多い層を1つ選ぶ
- その客層だけに向けた、1行の説明を書く(誰の、何の困りごとを解くか)
- 導入手順、使い方の資料、よくある質問をそろえ、商品を一式にする
- その客層の3人から、許可を得て成果の事例をつくる
- 事例を見せながら、近い客層1つに声をかけて反応を見る
契約や広告表現に関わる場合は、専門家にも相談してください。